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漢字を習うこと

「アジア人の子供は、ヨーロッパの子供より、描写能力が優れていると思う。それは君たちの言葉と関係があるんじゃないかな?だって『漢字』ってすごくクリエイティブで絵画的な文字じゃない。そういう言葉を子供の頃から習うのは、絵を描くことにも影響すると思うよ。」

この言葉は、家の近くにある、お皿の絵付けができるアトリエの主催者に初めて会った時に言われた。その工房で出来る作品は子供達に大好評で、年に一度私も我が家の教室の生徒達を連れて、絵付け体験をさせてもらっている。
アトリエのご主人は、普段はいつもドイツ人の子供達を相手にしているので、たまに来る外国人の子供達の作品と比べて、そう感じたらしい。私は日本人として生まれて、自動的に漢字を学習する世界で育ったので、そんなことを考えたことはなかった。
こちらに住んでいて、時々「私の名前、漢字で書いて。」と頼まれることもあるし、漢字のタトゥーを入れている人も多いし、アルファベットの言語が母国語の人達は、「漢字」に対してエキゾチックで漠然と憧れに似た感情を持ってることが多い気がする。


娘は昨年4月に日本人学校補習校に入学し、文部科学省から配布される教科書を用いて、日本の小学生と同じ内容の国語の勉強を始めた。普通の日本人の子達が月曜日~金曜日で習う内容を、週一回土曜日の午後4時間だけで詰め込みして習うスピード。平日はドイツ現地校に通うので、ドイツ語と日本語の宿題(加えて算数やピアノも)が日課の毎日。両立は親子共に簡単なことではない。2学期からは毎週新しい漢字5文字を覚えなくてはならず、アルファベットとの違いに、改めて私も難しさを感じた。

例えば「学」という字を書く時、上の部分(ツかんむり)をマスの中央くらいに書いてしまうと、下の「子」の字が詰まってしまってバランスの悪い文字になってしまう。でも漢字経験の浅い小学1年生の子供には、そんな予想は出来ない。母は消しゴムで何度も消して、「次に来る部分のことを考えて、必要な場所を空けておけるように、上の部分はあまり大きくなりすぎないようにしようね。」と促すことになる。それと比べると、アルファベットの文字は漢字ほど複雑な作りをしていないから、そんな気遣いは必要ない。例えばI、T、O、Xなんて、3歳児でも容易に書ける形だ。もちろん英語もドイツ語も単語の綴りを覚える問題があり、それはまた日本語にはない難しさではあるけれど、文字自体は感情に任せて気兼ねなくストレートに書くのに向いているかも知れない。

大げさかも知れないけれど、漢字を習うことで、観察力、予測力、構成力、バランス感覚、そして忍耐力なども養えるかも知れないと思ったりする。アルファベットと比べると、一拍おいて考える気遣いが必要で、とめ、はね、はらいなど、決まりごとが多い漢字の練習は、まだ自由に書きたい7~8歳の子供には時にストレスになるのは理解できる。それが普通の日本人児童の場合、義務教育では9年間、高校まで進んだら12年間、合計約2,000字を勉強する訳で、その膨大な数を学ぶのにかかる時間を考えると、あながち些細なこととは思えなくなって来る。日本人(または漢字を使う国民)のメンタリティーとの関係は否定できないのではと思う。

この春から娘は補習校の2年生になり、同時に漢字がぐっと難しくなり、習う量も倍に増えた。親の私も驚いたので、本人は尚のことで圧倒されてしまうのは理解できる。そして時々私も、こんなに頑張っても娘が大人になる頃は、今よりもっと世界はIT社会になっていて、きれいに文字を書けることはそれほど重要でなくなるかも知れないと想像したり、矛盾に似た気持ちを感じる瞬間もある。


でも漢字には、一文字一文字にストーリーがある。「木」が二つで「林」、三つで「森」になるように、「水」の「皮」と書いて「波」となるように、「忙」という字は「心」が「亡」くなると書くように、一つの文字の中に、なるほどと感じるふくらみや豊かな世界がある。昔の人達の知恵や思考が凝縮されている。字一つで意味が想像できる漢字の利点は、きっと今後の彼女の人生に何らかの形で役立つと信じている。

先日、娘は「日本語は漢字が細かくて、書くのが難しい。でもドイツ語は言葉を言う(発音する)のが難しい気がする。」と彼女なりに分析していた。表音文字(アルファベット)と表意文字(漢字)という、全く種類の違う言語を同時進行で勉強するということ - 日々異文化を平行して学ぶことで、複眼的、多面的に物事を観察、比較分析し、理解する力を少しずつ身に付けているのかも知れない。



by mikimics | 2019-05-13 19:31 | language | Comments(0)