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Maigrün 5月の緑 2014

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先日5月のsumi.
での個展で、知人の日本人女性がドローイングを1点購入して下さった。思いがけない彼女からの申し出は大変嬉しかった。そしてその絵をきっかけに彼女(Yさん)と連絡を取るようになり、好感を持つようになった。Yさんは日本で大学を卒業された後に、ドイツに留学そして就職しずっとそのまま住み続けられていたが、このたびめでたくご結婚され、お相手の方が住む大阪市へ転居される。15年も過ごしたドイツ生活にピリオドを打ち、新生活を母国日本でスタートする。その新居にドイツから持ち帰った絵を飾りたいと言って、私の作品を求めて下さった。それがこの„Maigrün 2014”である。

Maigrün (「マイグリュン」と発音。英語ではMay green「5月の緑」という意味)というタイトルは、絵具の名前から付けた。2007年春にこちらに転居して間もない頃、画材屋に立ち寄り、世界的に有名なドイツの絵具メーカーSchmincke(シュミンケ)の絵具を見つけた。シュミンケのことは日本にいる時から知っていたが、輸入商品なので当たり前だが値段が比較的高価で、買ったことはなかった。そしてこちらの価格はやはり日本より随分安いのを見て、一つ試しに買ってみた。その水彩絵具の色がMaigrünだった。2007年4月のドイツは記録的な快晴続きで、街はこの鮮やかな黄緑色マイグリュンにあふれていた。散歩をするだけでも心地良く、美しい所に来たなぁと日々感動した。
家に帰ってこの新しい絵具を早速試しに筆に含ませてみた。鮮やかな色が気持ちよく紙の上ですべり、帰り道に眺めた新緑の残像を想いながら、手が動くままに一枚好きに描いてみた。美しく良い絵具を使うと、それだけでテンションが上がる。ただただ楽しい幸せな瞬間で、それほど悪くないものが描けた。


それから7年後、個展の準備を進めていて、日本画作品だけではなく少しライトな水彩ドローイングも何点か飾りたいと思った。そして手頃な額もたまたま2つ手元にあった。2007年に絵具の試し描きで描いたMaigrünがちょうど額に入るし展示の雰囲気とも合う。では同じ額にもう1点連作的な絵を入れて飾ろう。でも何もない、じゃぁ仕方ない、今から描くか、と急きょ過去のスケッチを基に一晩で一気呵成に描いた。それが„Maigrün 2014”である。個展搬入2日前のことだった。そして連作として無事2点を展示した。

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„Maigrün 5月の緑” 28x21cm Watercolor on paper 2007(左) 2014(右)



絵にはそれぞれに運命がある、と時々しみじみ思う。搬入直前の追い立てられた精神状態で半分義務感から描いたドローイング、最後の最後で突然生み出された小品は、その後Yさんの目に留まり、彼女と一緒に日本に、しかも私とはあまり縁のない西の地へ渡ることになった。またYさんは数日前にドイツ、ライン川沿いの古城で行われた彼女の結婚式にも、この作品を飾って下さった。深夜のアトリエで期限ギリギリで描いたこの絵に、こんなに晴れやかな明るい未来が待っていたとは考えてもみなかった。

「私達が結婚した2014年に生まれたこの絵が、私がドイツで一番好きな季節の思い出を日本まで運んで来てくれると思います。」とYさんは言ってくれた。その言葉を聞いて、私達が結婚したばかりの頃のこと、初めてのドイツ生活、毎年春を迎えた頃の気持ちなど、色んな想いが頭をよぎった。そういう思い出を胸に一枚でも多く深くまた作品を創りたいと思った。


Yさんが送って下さった結婚式場の画像。右奥に小さく小さく„Maigrün 2014”が見える。

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by mikimics | 2014-09-16 18:36 | work