人気ブログランキング | 話題のタグを見る

mikiterao@jp.de

mikiterao.exblog.jp
ブログトップ

„Christo: Big Air Package” Gasometer Oberhausen, Oberhausen

„Christo: Big Air Package”  Gasometer Oberhausen, Oberhausen_e0316430_16391480.jpg

高校の美術の授業で「自然や建物を梱包することで、自分の作品を創るアーティスト」という先生の説明を聞きながら、教科書に載っていたSurrounded Islands 囲まれた島々”(Florida,1980-83) を見た。当時17歳の私は世の中には色んなことを考える人がいるものだと思った。そして海に浮かぶショッキングピンク色の布に囲まれた島々の写真は私の目に焼きつき、その後もずっとその画像を忘れることはなかった。
それが私が初めて観たChristo クリストの作品だった。
その後メディアやカタログなどで、数多くの作品を目にすることはあったけれど、実際のクリストのプロジェクトを観る機会はこれまでもちろんなかった。自分がいる所とは関係ない世界のどこかで発表され、テレビや雑誌などでその様子を見るものという勝手なイメージが私にはあったが、今回なんと偶然自宅から車で30分程で行ける距離で展示されていると言う。78歳という高齢の作家で、プロジェクトはいつも10~20年がかりのもの。こんな機会は滅多にやって来ないと思い、ひと月前の年末の慌しい中、展覧会最終日前日に家族で訪れた。
Gasometer Oberhausen ルール地方の工業都市オーバーハウゼンで1988年まで実際にガスタンクとして稼動した後、1994年からヨーロッパで最も高い展示ホールとなった建物。巨大な円柱形の建築内(高さ117,5m 直径67,6m)にエアーパッケージを設置するインスタレーション。2013年3月から9ヶ月間も展示していたのに、私達のように、ずっと気になっていたがなかなか行けず期限ギリギリに訪れた人達であふれ返っており、チケット売り場前は1時間待ちの行列だった。最終的には合計で44万人の来場者があったそう。

„Christo: Big Air Package”  Gasometer Oberhausen, Oberhausen_e0316430_16391451.jpg

„Once you enter the Interior, the room seems like a gigantic cathedral.”
とクリスト自身が言っているように、その中は本当に美しい白く巨大な聖堂のようだった。クリストの作品は包まれたり囲まれたりした建物や自然を外側から見るスタイルが多いが、この作品は逆に自分達が包まれているかのような不思議な感覚を得る。白とグレーのグラデーションが美しく、天井高いドーム状空間のために声や音が反響し、神聖な印象を受ける。円柱形に創られた布の均等な縫製の跡から、どれだけの気の遠くなるような細かい作業が折り重なってこの大きな物体が生み出されたかと想像すると、思わず涙が出そうになる。

„Christo: Big Air Package”  Gasometer Oberhausen, Oberhausen_e0316430_16391496.jpg
„Christo: Big Air Package”  Gasometer Oberhausen, Oberhausen_e0316430_16391491.jpg

地階にはこれまでのプロジェクトの様子が展示されていた。今は亡き妻Jeanne-Claude ジャンヌ=クロードと二人で仕事をしている姿の写真が何枚もあったが、これがどれもとても良かった。お互いに欠くことのできないパートナーという雰囲気がにじみ出ていた。プロフィールを見ると二人の誕生日は全く同じ日(1935年6月13日)で、正に出会うべくして会った運命の二人だったのだろう。
画像はWrapped Reichstag” (Berlin,1971-95)の様子。

„Christo: Big Air Package”  Gasometer Oberhausen, Oberhausen_e0316430_16391441.jpg
„Christo: Big Air Package”  Gasometer Oberhausen, Oberhausen_e0316430_16391584.jpg

彼のプロジェクトの仕事の大半は、政府、自治体、土地や建物の所有者への交渉、許可を得ることだという。必ず直接当事者に会いに行き、粘り強く説得するとのこと。そして芸術家は全てのことから自由であるべきだというモットーのもと、政府や企業からの援助は一切受け付けず、プロジェクトのドローイング等を販売し資金を得て、あれだけ大規模な計画を実行している。また実際の作業員もボランティアは雇わず、常にお金を払って働いてもらっているそう。その一貫した姿勢、そうした仕事過程すべてが彼の作品なのだと言えると思う。

プロジェクトの性質上、作品は期間限定の展示で、形は何も残されず人々の記憶の中にだけ生きる。帰って来てガスタンク内で撮った写真を再度見直してみると、うっとりと天井を眺めている2歳の娘の姿があった。その様子を見ていて、はかりしれない数の人達に驚きと感動を与え続けているクリスト氏の仕事はやはり偉大だと思った。


„Christo: Big Air Package”  Gasometer Oberhausen, Oberhausen_e0316430_19524191.jpg
外側から撮ったAir Packageの様子


by mikimics | 2014-02-01 20:23 | museum