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髪の色から想う、色の見え方

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私の髪の色は日本人にしては少し明るめ、黒というよりはこげ茶色で、日本で美容院に行くと美容師さんに「本当に何もしていなくてこの色なんですか?」とよく聞かれる。(もちろんドイツでは、そんな質問を受けたことはない。笑) ダークブロンドの夫の髪と混ざった娘はさらに明るく茶色に近いこげ茶色。きっと日本人に彼女の髪の色を尋ねたら、100%黒とは言われないと思う。

昨夏幼稚園に入園してすぐに、娘は先生と一緒に絵具を指で塗って自画像を描いた。黒の髪に茶色い瞳の絵。入園したての3歳児なので、きっと先生が色を選んだのだろうなと思った。幼稚園には他の子の絵も飾ってあり、金髪の子達は黄色の絵具、茶色の髪の子達は茶の絵具で描かれていて、黒の子は娘とほんの数名(南欧系の黒髪の子と、他にもう一人いる独日ダブルの子)だけだった。
また私は一度も言ったことないのに、娘は「わたしのかみはくろいから」と言って黒い髪の自分の絵を家でも時々描いたりする。きっと幼稚園で先生やお友達に言われているのか。私からすれば、カラーチャート的には娘の髪よりもっと黒に近い髪色の純粋ドイツ人の子供もいるけれど、きっと母親が日本人というイメージも手伝ってか、幼稚園内では彼女の髪はかなり黒く見られているのかも知れない。

先日日本滞在した時、娘の日本語教育のために実家の近所の幼稚園で、今後の滞在中に短期体験をさせてもらえないか見学にうかがった。園内に案内された時、園児達の黒い髪が集団で目に飛び込んで来た。本当にみんな黒いんだなと、当たり前ながら思ってしまった。そしてその中にいると娘の肌や髪の色がいつもより少し明るく私の目にも映る気がして、ドイツの幼稚園でクラスの半分以上が金髪の子供達という世界では彼女の髪がより黒く見えるのも当然かも知れないと改めて思った。


こう考えると色の見え方というのは、いかに相対的なものかと思う。同じ色でも人によって、人が持つイメージによって、場所によって、環境によって、少し違う色に見えているのかも知れない。

「相対的」という言葉を私が意識するようになったのは、17歳の時に美大専門予備校に行き始めてからのことだった。予備校の先生達は「絵とは相対的な世界なのだよ。色というのは他の色との対比で見え方が変わる。形もそう。だからきれいな色だけで絵を描こうとしてはいけない。そうでない色も適度に置くことで、きれいな色がよりきれいに見えるんだよ。」とよく教えてくれた。自分がこうだと思っている色は、実は他の色と比較して認識されている。

色を扱う仕事をしている立場からして、また人に絵を教えている身として、そして幼子の母として、「これって何色でしょ。」と断言することがいかに危険なことかと思う。
人が色を認識する度合いの幅の広さに敬意を持って、そして自分の見え方が絶対ではないという可能性を忘れずに、色と付き合っていきたいとつくづく思う。


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# by mikimics | 2015-02-26 21:29 | life | Comments(0)

„JAPAN ARCHITECTS 1945-2010” 金沢21世紀美術館, Kanazawa

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ずっと憧れて行きたいと思っていた石川県の金沢に、先月の日本滞在中に家族旅行し、念願の金沢21世紀美術館 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawaへも訪れた。ルーブル美術館別館のLouvre-Lens ルーブル・ランスも設計した日本人建築家ユニットSANAA建築のこの美術館は、ガラス張りのとても開放感がある造りで、この建物を体感できただけでも遠くまで来た甲斐があったと思った。メインエンランスがなく中央に円形展示スペースがあり、あえて動線を作らずどこからでも展覧会場に入れる仕組みになっていて、どこを見ても写真を撮りたくなるような美しい光景が広がっていた

企画展の「JAPAN ARCHITECTS 1945-2010」は戦後65年間の日本建築史を6つの時代に分けて紹介したもので、私達のように建築に造詣がない者にも分かりやすくセクション分けされていて、色々と勉強になった。特に第4セクションに1970年の大阪万博に関した模型、設計図、写真などが多数あったが、この万博がいかに当時そしてその後の日本また世界の建築に影響を与えたかが伝わってきた。私が生まれる前に開催された大阪万博の光景は今観てもあまり古い感じがしなかった。カタログが安価でデザインも内容もとても良かったので、今後の資料のために購入。


円形の展示会場の中庭に、恒久常設のアルゼンチン人アーティストLeandro Erlich レアンドロ・エルリッヒ „Swimming Pool”がある。普通にプールの底まで水が入っているかのように見えるけれど、実際は10cmほどの深さの水しか入っておらず、地下からもちろん濡れずにプールの中に入ることもできる。上から水越しに歩く人が見えるのが面白く、ほんの少しの発想転換で異空間が体験できるなとつくづく感心。娘もプールの水色の箱の中を楽しんで歩いていた。

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ただ最初、外にあるこの作品は「雨天のため非公開」という表示が掛かっていた。え!ここまで来たのにそんな!と思い係の人に質問してみると、「大丈夫ですよ、少しでも晴れ間が見えたら開けますので。」と落ち着いた様子で言われ、面白い応答だなとその時は思ったが、あとでどういうことか理解できた。
というのはとにかく天気が変わりやすい。この日一日の間で、晴れ、曇り、小雨、大雨、風雨、雪、雹、とすべての天気を経験したし、それが数十分単位でころころ変わる気がした。タクシー運転手さんの話では、これは典型的な日本海側の冬の気候で、この時期は「弁当忘れても傘は忘れるな」と現地の人達は言うらしい。


超モダンな作りの現代美術館なのに、係の方の応対はどこかほのぼのと温かく、地方の良さを感じた。美術館内にはベビーカーと車椅子が数台常備してあり誰でも自由に使えた。CURIOという初めて見たメーカーのとても美しいデザインのベビーカーで、娘もしっくりと座り心地が良さそうで、私達も押しやすい。気になって後で調べたら、岐阜県発の国産のブランドということを知り嬉しくなった。

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美術館のすぐ隣にはあの有名な兼六園もあり、ちょうど雪が積もった白い風景が美しく、寒かったので立ち寄ったお茶屋のご夫婦とも楽しい会話ができて、旅気分を味わえた。
金沢駅は3月14日にいよいよ北陸新幹線が開通することもあり、カウントダウンもしてあって、とても熱気が伝わって来た。夜は通りがかりで見つけたお魚の美味しいお店にも大満足したし、まだまだ観たいものを残してきたので、また必ず訪れたい素敵な土地だと思った。

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# by mikimics | 2015-02-23 22:00 | museum | Comments(0)

ドイツ語性格 日本語性格 (Let it go の歌詞の違い)

4月で4歳になる娘はドイツ語日本語共に随分よく話すようになり、4歳になる子供とこんなに会話って成立するものなんだなと、時々感心している。
以前のブログに、ドイツ語を話している時と日本語を話している時とで、娘のしぐさが違うということを書いた。今はそれに輪をかけて、それぞれの言葉を話していて彼女の性格が少し違って見える時がある。私から見ると、娘はドイツ語を話している時の方がなんとなく自立していてよく議論口調で話す印象で、それに対して日本語の時は同じことを言っていても、少し幼くおっとりしているように見える。

例えば我が家は夫と私と一日交替で娘の寝かし付けをしているが、私担当の日は日本語の絵本を読んで電気を消した後は、大抵おとなしくしていてそのまま寝入る感じなのに、夫の日はドイツ語の絵本を読んだ後に暗くしても、絵本の内容についてどうしてそうなったのかとか色々とよくパパと話し込んでいる。

これは彼女の両言語会話力の多少の違いもあるだろうし、またそれぞれの言葉自体が持つ特徴が理由でもあるだろう。また娘の立場からすれば当然のことだとも思う。ドイツで生まれ育ち普通の現地幼稚園に行っている彼女にとってドイツ語は外の世界で他者とコミュニケーションする言葉であり、自分の意見を自由に表現すると共に、時に他人と闘う必要がある場合に使う言葉である。それに対して日本語は主に私や私の家族、友人やその子供達と話す時の言葉であって、母親と一緒の時は安心しきっている訳だから、議論モードになる必要はないのかも知れない。


言葉の特徴の違いで最近気になったこと。
先月日本滞在した時、一時期のブームは去ったとはいえ、ディズニー映画「Frozen」の根強い人気を感じた。ドイツは日本ほどは流行っておらず、娘もよく知らなかったのだが、滞在中当然影響されて主題歌も歌うようになった。そして日本語の歌と同時にドイツ語の歌も聞きたがるので、私も一緒に聴いてみたところ、それぞれの言葉の歌詞の違いが気になった。以下、サビの部分の日本語とドイツ語の歌詞。

(日本語)
ありのままの 姿見せるのよ
ありのままの 自分になるの
何も恐くない
風よ吹け
少しも寒くないわ

(ドイツ語)
Ich lass los, lass jetzt los
Die Kraft sie ist grenzenlos
Ich lass los, lass jetzt los
Und ich schlag die Türen zu
Es ist Zeit, nun bin ich bereit
Und ein Sturm zieht auf
Die Kälte sie ist nun ein Teil von mir
(以下、訳)
もういいの、これでいいわ
この力は無限なの
もういいの、これでいいわ
そして強くドアを閉めるの
この時が来た、準備はできてるわ
そして嵐が来るの
寒さは私の一部なのよ

両言語共に英語からの訳なので、かなり意訳になっていて、もともとの意味から少し離れてしまっている所はあるけれど、日本語は易しくやわらかい言い回しになっているのに対して、ドイツ語の方がより論理的で内容が強い印象を受ける。これはドイツ人と日本人の表現方法の差異でもあると思うが、子供向けの歌からしてもう違うんだな…と考えてしまった。


最近ある雑誌で滝川クリステルさんのインタビューを読んだが、話せる言葉の順位は日本語、フランス語、英語だけれど、日本語よりフランス語を話している時の方が、自分をより解放できる気がすると言っていた。同じ人間でも言語によって性格が変わる ― 言語が人に与える影響は計り知れないと改めて思った。


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# by mikimics | 2015-02-10 16:01 | language | Comments(0)

„東山魁夷と日本の四季” 山種美術館, Tokyo

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ドイツへ移り住んで間もなく8年、久しぶりに日本で迎えた新年の日に観た東山魁夷展はただ心に沁みた。
12月に日本行きを決めて、滞在中に何か面白い展示が観られないかチェックして「山種美術館 東山魁夷と日本の四季」展という情報を見つけた時、純粋にあぁ、観たいなと思った。

東山魁夷は昭和の大画家で、約20年前に大学で日本画を学んでいた私達にとっては、誰もが一度は憧れる存在だった。普遍的で理解しやすくも、従来の日本画にはない新しい構図や造形美を感じる風景画が多く、精緻な画面を前にして、どうやったらこんな絵が描けるようになるんだろうと、当時食い入るように見つめたものだった。私がこれまでに一番東山魁夷の絵を多く観たのは学生時代だったと思う。その後は現代的な仕事をしている作家に興味が行くようになり、意識して観る機会は減っていった。
そして今回、とても久しぶりに改めて東山魁夷展を観て、やっぱりいいものはいつ見てもいいのだ、としみじみ思った。そして学生時代の思い出が一気に頭をよぎった。友達と東山作品の色の重ね方や仕事の手順を想像して話し合ったりしたこと、風景画の課題の時によく画集を見て参考にしたことなど、忘れかけていたものを色々と思い出せてもらえた。


東山魁夷は東京美術学校日本画科を卒業すると、日本画家としては珍しく留学を、それもドイツのベルリンで美術史を学んでいる。今の時代と比べると、1933年(昭和8年)当時としては、相当の覚悟と準備を以っての留学だったと思う。そのことはずっと知っていて珍しいケースだと思っていたが、今自分がドイツに住んでいることもあり今回気になって調べてみたら、このような氏の言葉を見つけ、個人的にまた好きになった。

美術学校を卒業して間もなくドイツに留学したのも
日本画家にとって奇妙なケースではあるが
私自身には必然的な欲求があってのことだった。
フランスやイタリアを選ばず、ドイツへ向かったのは
感覚的な世界へ傾きがちな私の性質に
しっかりした支柱を入れたい意味もあった。
若い日の想い出深いドイツは私の第二の故郷ともなったのである。
― 東山魁夷画文集 別巻『自伝抄 旅の環』1980年1月


今回日本画作品と共にスケッチの展示も多かったのが印象的だった。スケッチは山や海などの自然の前で直接描かれたものなのに、結構しっかりと細部まで厚塗りしてあり、どんな状況でもきちんと描き抜く姿勢がうかがわれた。スケッチはすべて東山家コレクションになっており、家宝を見せていただいた気持ちになった。
また優れた文筆家としての一面を持つ東山魁夷本人の言葉が、すべての作品に掲げられていたことで、一つ一つの作品がより脳裏に焼きついた。印象的な言葉がいくつもあったが、スケッチについて書いた言葉、これは私も忘れないようにしなくてはと改めて思った。

スケッチには始終一貫して
私の生地が出ている。
それはそのまま私の心の遍歴を
語るものであり、時々失い勝ちになる
私自身を示す道標でもある。


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# by mikimics | 2015-01-31 23:18 | museum | Comments(0)

„Monet, Gauguin, van Gogh... Inspiration Japan” Museum Folkwang, Essen

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デュッセルドルフ近郊の町Essen エッセンにあるMuseum Folkwang フォルクヴァンク美術館。
100年近い歴史を持つ大きな美術館で、
19世紀後半フランス後期印象派、20世紀初頭ドイツ表現主義の絵画や彫刻、近年は加えて写真やビデオアートなどの有数なコレクションを持つことで有名で、2010年にイギリス人の建築家David Chipperfield デヴィッド・チッパーフィールドの建築でリニューアルオープンした
ここで現在開催中の企画展 Monet, Gauguin, van Gogh... Inspiration Japan モネ、ゴーギャン、ゴッホ 日本のインスピレーション” - 19世紀後半にヨーロッパで起こったジャポニズムが、どうのように当時の作家に影響を与え、また次世代芸術へ展開されて行ったかを検証する展覧会。これは日本人として是非観ておきたいと思い、今月始めに家族で訪れた。

会場はテーマごとに12の部屋に仕切られ、影響を受けたヨーロッパ作家の作品、モネ「睡蓮」シリーズ、ゴッホ「種まく人」、ドガ「踊り子」シリーズ他、ゴーギャン、クールベ、ボナール、ピカソなど、また影響を与えた日本の作品、葛飾北斎、歌川広重、喜多川歌麿などの浮世絵、陶器、扇子などの立体作品、名作が多数展示され、総点数400点以上というとても見応えがある展示だった。

浮世絵作品群はドイツ各地の美術館のみならず、近隣諸国からも集められていて、葛飾北斎「富嶽三十六景」シリーズがずらっと一列に並んだ壁を前にした時には、この光景をここドイツで観られることを幸せに感じた。オリジナルは色がとても鮮やかで、空、海、山に使われているプルシアンブルーがとても美しい。そしてモネ、ゴッホ、ロダン、ピカソなど有名な作家個人が、多数の浮世絵や型紙のコレクションを持っていたことを知り驚いた。

改めて浮世絵を観て感じたこと。
例えば人物画は、人体の動きや構図、着物の色や柄の表現などはとても多彩なのに、顔の表情は一貫して無表情。男女の営みの瞬間を描いた春画でさえもそうで、それでも日本人の私には微妙な感情を読み取れる気がするけれど、当時のヨーロッパ人には皆均一に見えたのではないかと思う。でもそれが自分達にはない摩訶不思議でミステリアスな魅力と写ったのかも知れない。春画から影響を受けたピカソの版画も展示されていたが、そちらの人物にはもっとヨーロッパ人的な表情があった。
風景画は山、海、木、橋など主題がはっきりしていて、また超近景と超遠景の組み合わせ、という西洋遠近法的には決して正しいとは言えない構図が多い。でも逆にそれが効果的な絵画表現となって強烈な印象を残す。よくこんな大胆な構図にしたなと立ち止まって見入ったものが何枚かあった。これもそのうちの一つ。

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(近景に道を歩く馬のお尻から足、遠景に町並みを描いている)



そして美術の教科書に載っていたような印象派の名画が続く。旧知の作品も影響を受けた浮世絵作品と一緒に並ぶと、なるほどと思う。セザンヌの「サント・ヴィクトワール山」を前にして3歳の娘に「これなあに?」と聞いたら、彼女は「ふじさん」と答えた。私が彼女に山といえば「富士山」としか教えていないのもあるけれど、日本絵画によくある富士山の絶対的存在感を、彼女がシンプルに感じ取った気がして面白かった。
そして10番目の部屋には展覧会クライマックスという感じで、ジヴェルニーのモネ庭園の大作が並び、ぜいたくな気分になる。浮世絵に描かれた太鼓橋に憧れて、自分の庭にも半円形の橋を作らせたモネを少しお茶目に感じた。

個人的に気に入ったのは、Mary Cassatt メアリー・カサットの版画。何気ない生活の一場面を表現した浮世絵作品から影響されて、母子像などを多く残している。あっさりとシンプルに描かれた小品は、家に飾ってずっと愛でたいような引き込まれる魅力があった。色彩や雰囲気から竹久夢二の絵を思い出した。

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Mary Cassatt 1890-1891年の作品



この展覧会をここヨーロッパで観ることができたことが、私にとっては意味があった。似た内容の企画展は日本でも多くされているが、日本で観るのとはきっと感じ方が違ったと思う。ヨーロッパから日本を想い、その極東の国がいかに遠く
、いかにその文化が異質で謎めいていて、そして当時の人々に斬新に映ったかを、西側からの視点で想像できた気がする。
展覧会は好評につき会期が延長され、2015年2月1日まで開催中。これから行かれる方は、とにかく見応えがあるので時間に余裕を持って訪れることをお勧めします。

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# by mikimics | 2014-12-28 21:32 | museum | Comments(0)

Tagesmutter 保育ママ

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幼稚園入園前の1年半の間、私達は娘を週3日、Tagesmutter(保育ママ)に預けていた。このシステムはドイツではかなり普及されているもので、日本でも最近少しずつ広まって来ていると聞いている。Tagesmutter(「ターゲス・ムッター」と発音、昼間のママという意味。Tagesvater ターゲス・ファーター(保育パパ)ももちろんいる)とは、市の研修を受け資格を取得した人が自宅で3歳以下の子供を最大5人まで1度に預かる制度で(人数は預かる場所の広さによる)、日本同様ドイツにもある保育施設不足による待機児童問題などの緩和策の一つとして、利用者はかなり多い。

2012年末、娘が1歳8ヶ月になる頃、そろそろ娘の託児を始めようかと夫と相談した。私も少しずつ仕事を再開したいし、少々シャイな性格の娘にも社会性を持たせたい、でも私の仕事はフリーだし3歳まではできるだけ娘との時間も大切にしたいので週5日託児は多すぎる、という我々の希望を満たすのは保育園ではなく、Tagesmutterが良いだろうと考えた。そして何より日本ではまだ身近でないこのシステムを私が体験してみたかった。結果としてこの選択は我が家には正解だったと思う。私達は幸運にもとても良いTagesmutterと出会うことが出来たし、保育園よりもずっと家庭的で親身なケアを娘は彼女から受けることが出来た。3歳までの他人との信頼関係を育む大切な時期に、娘にたくさんの愛情を注いでもらって本当に感謝している。


我が家がお世話になったTagesmutter(Bさん)ついて少し書きたい。

私達は市のJugentamt(児童福祉局)内にある紹介所に登録し、Bさんを紹介してもらった。彼女は私より少し年下、未婚で出産経験もなく転職して資格を取ったばかりで、これから新しくTagesmutterを始めるという人だったので、その点が私達は最初は気になった。でも逆にそれだけにフレッシュでやる気があり、外国人新米ママの私の話も謙虚によく聞いてくれ、フレキシブルに対応してくれる印象を持った。彼女自身5人兄弟の末っ子、気さくで話しやすく、見るからに子供好きでまた子供からも好かれる雰囲気があり、頼りになるベテランではないけれど、一緒に相談しながらやって行けそうな気がした。そして子供達が自由に集う場所になるようにという構想を持って、数年前に中古で購入し自分で思い通りにリフォームした大きな庭のある家、彼女の愛情があらゆる所から感じられる、居心地の良いその場所を私達はすぐに気に入った。娘はここでこの人ときっと楽しく過ごせるだろうと、親としての直感があった。

そして2013年1月から、うちの娘と少し年下のドイツ人の女の子2人が彼女にとっての最初のTageskinder(昼間の子供)になった。それについては私は少し思う所があった。というのは私がドイツに来て間もなく自宅で絵画教室を始めた時、ドイツ人と日本人の男の子が2人最初に来てくれた。その後は口コミなどでどんどん生徒数が増えて行き、どの子供達も変わりなくかわいかったが、この2人は最後まで私にとって少し特別な存在だった。見ず知らずの私の所に子供を行かせようとよく決心して下さったと彼らの親にもずっと感謝の気持ちを持っていた。きっとBさんも最初の子供となる娘達に対しても、そういう感情を持って大切に接してくれるのではないかと想像した。「最初の子供」になるチャンスは1度しかないのだから、それに賭けてみようと思った。

Bさんの一日。7時~9時までの間に子供を預かり、必要な子には朝食をあげ、午前中お天気が良い日は近所の公園か自宅の庭で子供達を遊ばせ、12時に昼食を作り食べさせる。午後は13時から1~2時間のお昼寝タイム、起きた後はお菓子タイム、15時~16時に子供達お迎え。子供と遊びながら常に平行して4~5人の子供のオムツ替えやトイレの世話もあり忙しい中、携帯で撮った画像を毎日たくさん私達保護者に送ってくれた。子供がどんな風に過ごしているか親としては姿を見たいもので、その親心を汲んだ彼女の個人的サービスは、本当にありがたかった。

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またこのTagesmutterシステムで感心したことがいくつかあった。

市からの補助金について
行政の育児支援として、各家庭のTagesmutterへの費用に市から援助金が出る。その金額は両親の収入によって変わるので、まず両親の就労時間や収入金額などを書類で提出するのだが、我が家の場合は、夫は会社員なので会社を通じて書類を提出できるが、私は自由業で安定していないので書類が作成できない。なので私はこれまでして来た仕事の経歴と今後の予定などの個人的手紙を書き、ダメ元で児童福祉局に提出した。するとなんと我が家は全体で約3分1ほどの援助金が受け取れることになり、その通知が市から届いた時はドイツってすごいな~とただ感動した。そしてデュッセルドルフ市も応援してくれているんだから、もっと制作に励もうと素直に思えた。

代理システムについて
Tagesmutterが急に病気や何かの事情で仕事が出来なくなった時、代理で引き受けてくれるTagesmutterがまた別にいる。具体的に書くと、Bさんが登録している地区には計10人のTagesmutterがいるが、他に1人常時代理としてスタンバイしている。この地区の代理人はたまたまTagesvaterだったのだが、非常時でない普段は彼は定期的に10人のTagesmutterの所を訪れ、地区内の全員の子供と触れ合う。そうしておけば子供も急に知らない人の所へ預けられるということにはならないのである。娘がお世話になったBさんの所にも月に2回は来て子供達と遊んでくれていたので、娘も彼の名前をちゃんと憶えていた。これは本当にすばらしいシステムだと思う。

市の定期検査について
市の管理者が定期的(3ヶ月に1度位)にTagesmutterの家に点検に周り、安全面や仕事ぶりをチェックし、改善すべき問題点を指摘する。そして抜き打ちで保護者にも直接連絡をし、Tagesmutterについての意見や感想を調査する。突然家に電話が掛かって来た日は驚いたけれど、私達はBさんに満足していたので、できるだけ彼女のことを褒め、少し娘のことなども話した。担当の方は「お宅のお嬢さんにも何度か会いましたが、最初の頃と比べると随分しっかりして成長されましたね。幼稚園に上がるための良い経験を積んだと思いますよ。」と私達のこともよく憶えていてくれて、きめ細かい配慮に好感を持った。



Bさんの家での最後の託児日は、入園を心待ちにする半面、私達両親も1年半通ったこの家に来週からはもう来ないのかと思うと、少し寂しい気分でもあった。そしてBさんはお別れに娘にこんな素敵な手作りのバックと、彼女の家で楽しんでいる娘の写真をたくさん貼ったお手紙をプレゼントしてくれた。娘はこのバックを持って毎日元気に幼稚園に行っている。Bさんは私達にとって、初めて家族以外で信頼して娘を預けた人で、彼女との出会いは私のドイツ人生においても特別なものとなった。つい最近も彼女の提案でBさんの家を卒業した子供達と家族をお茶に招待していただき、久しぶりに懐かしい場所、仲間に会うことができ、娘もとても喜んでいた。今後もBさんには娘の成長を定期的に伝え、長く付き合っていきたいと思っている。Tagesmutterと相手の家庭との相性もあると思うが、3歳以下の子供の託児で愛情あふれる家庭的なケアを求めている方には、私はぜひお勧めしたい制度である。


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# by mikimics | 2014-11-21 19:03 | life with kids | Comments(6)

第5回えびすビエンナーレ2014  Ebisu Biennale

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様々な職業の方47名が参加する、廃材より制作された作品の展覧会「第5回えびすビエンナーレ」に参加します。私は引越の箱から集めたダンボール片で制作した小品2点を展示します。お時間ございましたらどうぞご高覧下さいますよう、お願い申し上げます。

第5回えびす「美縁成」ビエンナーレ
10月26日(日)- 11月2日(日) 12:00-20:00 (最終日 -17:00)
ギャラリー・オークラ 渋谷区恵比寿南3-2-9 Tel:03-3793-0844
facebook: EBISU BIENNALE  youtube: EBISU BIENNALE 2010

この展覧会は2006年から2年おきに開催されているもので、恵比寿、代官山駅そばの瀟洒な住宅内にあるギャラリーにて行われます。主催者が知人でお声を掛けていただいたことがきっかけで、私は2008年より今回で4回目の出展になります。参加者はデザイナー、コピーライター、建築家などのクリエイティブな職業の方から、会社員、レストラン経営者など様々な業種の方達で、そのプロ意識の高さ、多彩なアイディア、個性あふれる作品群にこちらもいつも刺激をいただいています。「廃材」という素材が、発想一つでこうも美しく面白く表現されるのかと、作り手の愛情と仕事量に感動させられます。私はいつも制作している日本画とは違うスタイルの作品になりますが、コンセプトは同じつもりで、そして日本のものとは少し違うドイツの廃材を紹介するような気持ちも込めて発表しております。またビエンナーレは2年に1回という意味ですが、「美縁成=美が縁に成る」という願いも兼ねているそうで、実際この展示で参加者同士として出会い、結婚されたカップルもいらっしゃるそうです。

以下、私のこれまでの作品紹介。

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„Ei light (アイ・ライト)”  2008年 照明器具 1位入賞作品
木製パネル、卵パック、アクリル絵具、蛍光顔料、LED (Ei (アイと発音)とはドイツ語で「卵」の意味。


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Ei(アイ)シリーズ  2010年 上から花器、キャンドルホルダー、ペン立ての作品シリーズ
25×10cm×5cm 4点 卵パック、木材、トイレットペーパー芯、試験管、アクリル絵具


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Twinkle Deckel (トゥインクル・デッケル)  2012年 画面右の照明器具
45x30cm 2点 木製パネル、プラスチック容器のキャップ、アクリル絵具、LED
(Deckel (デッケルと発音)とはドイツ語で「ふた」の意味。)



そして今回はこの時期に日本滞在できないため作品のみ送ることにしたので、郵送を考慮して平面の小品2点を制作しました。昨年末220箱のダンボールと共に転居した際、引越し業者の用意した箱からいくつも半円のような形のダンボール片が出てきました。最初は気にせずどんどん捨てていたのですが、眺めているうちに生き物のように見えてきて愛着が湧き、なんとなく集めてみました。同じ向きに何個も並べると何か生物の群れを連想させられ、集団社会、個と全体の関係など、様々なことを考えながら制作しました。

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群れ  2014年 平面作品
23x16cm 2点 木製パネル、画用紙、ダンボール片、蛍光顔料、アイロンビーズ


展覧会はいよいよ今日から1週間開催されます。お近くにいらっしゃる予定のある方、どうぞよろしくお願いいたします。

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# by mikimics | 2014-10-26 18:12 | information | Comments(0)

Frankfurt Book Fair 2014  フランクフルト・ブックフェア

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毎年10月半ばに開催される世界的に有名なFrankfurter Buchmesse フランクフルト・ブックフェア。ドイツに住むようになってから、いつか一度行ってみたいと思っていたこの書籍の見本市に、この秋初めて行くことができた。今年で66回目、5日間の会期中に約28万人もの入場者が訪れたそうで、一般公開最終日の日曜日はかなりの人の入りだった。他の予定の帰り途中に寄り、3時間しかいることができなかったのだが、色々と面白い発見があった。

展示ホールは12会場もあり、約100カ国から7,000もの出展者が参加し、様々なジャンルの本、出版社が紹介されていて、レポを書けるほど見られた訳ではないのだけれど、娘の機嫌が良いうちにまず最初に、と回った児童書関係のブースを一番じっくり見ることができたので少しここに書きたい。

以下、私の独断と偏見で選んだ今後注目して行きたいドイツ系児童書出版社の紹介。

Usborne Verlag
塗り絵や工作が出来るアートブック、かわいくカラフルなデザインのクリエイティブな本が多いのだが、ここのシールブックがすごい!人形の家、妖精、バレエ、結婚式などがテーマの女の子の着せ替え遊び的なものから、サッカー、クリスマス、世界旅行など男の子が楽しめるものもある。私が思わず感動して買ってしまった「Im Schloss - 宮殿の中」がテーマのシールブックは、美しく描かれたいくつもの部屋に、アンティークの家具、調度品、食器などのインテリア用品200枚以上のシールを貼るという、すみずみまでこだわりを感じるものだった。子供向けながらかなり質が高くマニアックな出版社と感じた。

leiv - Leipziger Kinderbuchverlag
日本でもおなじみのチェコのアニメ「モグラのクルテク君」やフィンランドの「ムーミン」などの絵本を始め、東欧諸国や旧東ドイツ時代の本を多く扱うライプツィヒの出版社。カタログには東欧特有のレトロなデザイン、クラッシックな雰囲気漂う美しい本が並び、とても魅力的。こういう本を身近に見られるのはヨーロッパならではと実感。

Kindermann Verlag
ベルリンの出版社。シェークスピアやゲーテ、シラーなどの古典世界文学に現代の絵本作家の絵を付けて出版したものが多く、私が自分のために読んでみたい本が満載。他にも子供向けに有名な芸術家を紹介した本のシリーズもある。

Jungbrunnen
90年もの歴史を持つオーストリア・ウィーンの出版社。Heinz Janisch 作、Helga Bansch 絵という組み合わせの本を多く出していて、Helga Bansch ヘルガ・バンシュというイラストレーターの絵が私は好きで以前に買ったことがあったので、すぐに分かった。「Bücher für die Kinder mit Köpfchen - 小さく賢い頭を持つ子供達のための本」というモットーのもと、良質の本を数多く出版している。


また今回他に「Mehrsprachige Kinderbücher - 多言語児童書」のブースがいくつかあったのが、私達の目を引いた。ドイツ内の外国人はトルコ移民が最も多いので、ドイツ語とトルコ語の組み合わせの本が結構存在していることを知った。そしてもちろんドイツ語と英語、また他のヨーロッパ言語、アラビア語等との組み合わせもかなりあるらしいが、我が家に向いたドイツ語と日本語というレアなコンビのものもないか探してみたら、なんと一つの出版社が扱っていた。
Quartier Malleribes Verlagというデュッセルドルフ(さすが!)にある会社で、ただ現在はまだ計画段階で、近い将来E-Bookという形で中国語や日本語もダウンロードで購入可能予定と書いてあった。今後も需要が増えると思うので、選択肢が増えると嬉しい。

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「Elmar - ぞうのエルマー」の多言語絵本シリーズ


児童書ブースに関してしか言えないが、日本の出版社は1社しか出展していなかった。グラフィック社がマンガ部門で参加していて、その影響かコスプレした若者達もその近くにたくさんいた。日本の1社に対して、韓国や中国からは数社が出展していて、フランクフルトには韓国人が多い(日本人はデュッセルドルフ、中国人はハンブルグに多く住んでいる)のも影響しているかも知れないが、特に韓国の会社群の勢いを感じた。

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Samsung GALAXYの休憩、体験スペース


メッセ会場ではいつも、大勢の人の中をかき分けながら歩いて色々回るので、人酔いして結構疲れるものだけれど、新情報も得られるしわざわざ行く甲斐はあると毎回思う。せっかくメッセ発祥の国ドイツに住んでいるので、可能な限り色々と観覧できたらと改めて思った。


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# by mikimics | 2014-10-20 01:49 | picture book | Comments(0)

最近の娘から感じること

先日止むを得ない事情があり、近所の日本人のママ友達の家で、2時間ほど娘を預かってもらった。その家には娘と同じ3歳半の独日ダブルの女の子がいて、私達母親同士は妊婦教室で知り合い、娘同士も赤ちゃんの時から遊び合っているという、母娘共に大切な友達である。
用事が終わり娘を迎えに行き、友人からどのように娘達が過ごしていたかを聞いた。母親同士が日本人なので、私達が親子で会う時は娘達もいつも自然に日本語で会話をしている。この日も最初は日本語でおしゃべりしていたが、しばらくすると女の子が「私達、これからドイツ語で話さない?」と提案をし、娘も同意して、それからぶゎ~っとドイツ語で話し始め、結局会話の大半をドイツ語で通したそう。そして母親達の知らないドイツ語の歌を一緒に歌ったり、ずっと二人だけで会話をしながら遊んでいたらしい。
私はこの話を聞いて、知らなかった娘達の一面を聞いたようで驚いた。彼女達は自分達の意思で二つの言葉を選ぶことができ、母親がいない二人だけの会話の時には日本語でもドイツ語でも会話できるけれど、どちらかというとドイツ語の方が楽、ということらしい。

バイリンガル教育は子供の性格形成にに影響するのではないかと時々不安になる時がある。
先日私と娘だけで日本滞在していた時、日本語漬けの生活なので、たまにはドイツでよく見ている彼女が好きなドイツ語のビデオなども見せてあげようと思い、「何が見たい?好きなの何でも見せてあげるよ。」と質問すると、彼女は少し考えて、「じいじ、ばあば、にほん(人だ)から、しまじろうかアンパンマンにする。」と答えたので、驚いてしまった。ビデオは娘一人が見るだけで、別に私の両親と一緒に見る訳ではないのに。自分が何を見たいかよりも、その場の状況に相応しいかを優先する3歳児。(滞在の終わり頃には我を出すようになって来て、ドイツ語のビデオも要求するようになったけれど。)
生まれた時から同時に二つの言葉、二つの世界を行き来していて、周囲の状況を判断し相手に合わせて自分が応対を変える。常に周りに気を配れるのはすばらしいことだけれど、普通だったら必要ない気苦労を、小さいうちからさせているのではと思ったりもする。それが彼女には普通のことかも知れないが、いつの日かどうして自分ばっかり?と悩む日が来るかも知れない。その時に親としてどう受け止めてあげられるのか。

以前自宅の絵画教室に独日ダブルの小学1年生の男の子が来ていた。彼はこちらで生まれ育っているが、毎年夏には一月ほど日本滞在し、ご両親の努力もあって理想的なバイリンガルだった。彼はサッカーワールドカップの時、「ドイツの試合の時はドイツを応援する。日本の試合の時は日本を応援する。でももしドイツと日本が戦うことになったら、僕はドイツを応援する。」と言っていた。この言葉は私には印象的だった。とても的確に彼の立場を物語っている言葉だと思う。そして数年後きっとうちの娘も彼と同じ心情を持つようになるだろう。
夫も私も外国語は成長してから学習して身に付けたのもので、バイリンガルで育った訳ではない。娘とは生誕からして人生が違うので、彼女の気持ちを100%理解することはできないかも知れない。でもできるだけ今後複雑になるであろう彼女の立場を思いやり、尊重してあげる姿勢を忘れないようにしなければと思う。

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# by mikimics | 2014-10-02 19:37 | life with kids | Comments(0)

Maigrün 5月の緑 2014

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先日5月のsumi.
での個展で、知人の日本人女性がドローイングを1点購入して下さった。思いがけない彼女からの申し出は大変嬉しかった。そしてその絵をきっかけに彼女(Yさん)と連絡を取るようになり、好感を持つようになった。Yさんは日本で大学を卒業された後に、ドイツに留学そして就職しずっとそのまま住み続けられていたが、このたびめでたくご結婚され、お相手の方が住む大阪市へ転居される。15年も過ごしたドイツ生活にピリオドを打ち、新生活を母国日本でスタートする。その新居にドイツから持ち帰った絵を飾りたいと言って、私の作品を求めて下さった。それがこの„Maigrün 2014”である。

Maigrün (「マイグリュン」と発音。英語ではMay green「5月の緑」という意味)というタイトルは、絵具の名前から付けた。2007年春にこちらに転居して間もない頃、画材屋に立ち寄り、世界的に有名なドイツの絵具メーカーSchmincke(シュミンケ)の絵具を見つけた。シュミンケのことは日本にいる時から知っていたが、輸入商品なので当たり前だが値段が比較的高価で、買ったことはなかった。そしてこちらの価格はやはり日本より随分安いのを見て、一つ試しに買ってみた。その水彩絵具の色がMaigrünだった。2007年4月のドイツは記録的な快晴続きで、街はこの鮮やかな黄緑色マイグリュンにあふれていた。散歩をするだけでも心地良く、美しい所に来たなぁと日々感動した。
家に帰ってこの新しい絵具を早速試しに筆に含ませてみた。鮮やかな色が気持ちよく紙の上ですべり、帰り道に眺めた新緑の残像を想いながら、手が動くままに一枚好きに描いてみた。美しく良い絵具を使うと、それだけでテンションが上がる。ただただ楽しい幸せな瞬間で、それほど悪くないものが描けた。


それから7年後、個展の準備を進めていて、日本画作品だけではなく少しライトな水彩ドローイングも何点か飾りたいと思った。そして手頃な額もたまたま2つ手元にあった。2007年に絵具の試し描きで描いたMaigrünがちょうど額に入るし展示の雰囲気とも合う。では同じ額にもう1点連作的な絵を入れて飾ろう。でも何もない、じゃぁ仕方ない、今から描くか、と急きょ過去のスケッチを基に一晩で一気呵成に描いた。それが„Maigrün 2014”である。個展搬入2日前のことだった。そして連作として無事2点を展示した。

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„Maigrün 5月の緑” 28x21cm Watercolor on paper 2007(左) 2014(右)



絵にはそれぞれに運命がある、と時々しみじみ思う。搬入直前の追い立てられた精神状態で半分義務感から描いたドローイング、最後の最後で突然生み出された小品は、その後Yさんの目に留まり、彼女と一緒に日本に、しかも私とはあまり縁のない西の地へ渡ることになった。またYさんは数日前にドイツ、ライン川沿いの古城で行われた彼女の結婚式にも、この作品を飾って下さった。深夜のアトリエで期限ギリギリで描いたこの絵に、こんなに晴れやかな明るい未来が待っていたとは考えてもみなかった。

「私達が結婚した2014年に生まれたこの絵が、私がドイツで一番好きな季節の思い出を日本まで運んで来てくれると思います。」とYさんは言ってくれた。その言葉を聞いて、私達が結婚したばかりの頃のこと、初めてのドイツ生活、毎年春を迎えた頃の気持ちなど、色んな想いが頭をよぎった。そういう思い出を胸に一枚でも多く深くまた作品を創りたいと思った。


Yさんが送って下さった結婚式場の画像。右奥に小さく小さく„Maigrün 2014”が見える。

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# by mikimics | 2014-09-16 18:36 | work | Comments(0)